富嶽三十六景・凱風快晴|葛飾北斎
日本が誇る浮世絵、この浮世絵を広告利用(商用利用)したいと考えている方も多いのではないでしょうか。一方で浮世絵に関しては著作権がどうなっているのか、広告利用する場合どこに問い合わせれば良いのかなど、分かりにくい部分もあります。そこで本記事では浮世絵を広告利用する場合の手続きや注意点について解説していきます。浮世絵の定義や代表的な浮世絵師なども合わせて説明しますので、参考にして下さい。
【目次】
・浮世絵とは?
・浮世絵を広告利用(商用利用)するには?
・代表的な浮世絵師と浮世絵
・浮世絵を広告利用(商用利用)する際のまとめ
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浮世絵とは、江戸時代(1603年-1868年)に成立・発達した絵画様式のひとつです。浮世絵には当時の民衆の暮らしや流行などが反映されており、主に町人の間で普及しました。浮世絵を明確に定義するのは難しいですが、辞書などでは「江戸時代を中心に発達した風俗画」と定義されている場合が多いです。浮世絵と言えば江戸時代と思う方も多いかもしれませんが、明治から大正にかけても浮世絵は作られています。そのため「江戸時代を中心に」という表現になるようです。ちなみに浮世絵の「浮世」とは、「苦しい、辛いことが多い世の中」を意味する「憂き世」に由来すると言われています。
【浮世絵の技法】
浮世絵の表現技法には、大きく肉筆画と木版画のふたつがあります。木版画は、版木という木に絵師が描いた絵を彫って凹凸を作り、版木に色をつけて刷り上げる表現技法のことです。版木が完成すれば同じ絵を何枚も刷ることが可能なので、当時としては画期的な技術でした。初期の浮世絵は書道にも使用される墨の線、一色で刷られたものが中心だったようです。しかし、重ねて刷る版画の技術が進歩し、多色刷り版画の手法が確立されると、次第にカラーの木版画が出始めました。一方で肉筆画とは、絵師が自分の手筆で描いた浮世絵のことです。木版画は複製できるのに対し、肉筆画は一点ものであるため、価値が高くなる傾向にあります。
【浮世絵の歴史】
浮世絵の歴史は、江戸初期の絵入本(版本)の挿絵を独立して描いた墨摺一枚絵に始まると言われています。本の挿絵を描く絵師として活動していた菱川師宣が、墨摺一枚絵の版画を制作するようになり、浮世絵が独立したジャンルとして確立されました。江戸中期になると「版」による色付けが始まり、多色刷りのカラフルな浮世絵が量産されるようになりました。この江戸中期が浮世絵最盛期と言われています。特に美人画や役者絵の浮世絵が人気となりました。江戸後期には浮世絵の最盛期が過ぎ、美人画や役者絵の人気にも陰りが見え始めます。その代わりに風景画が人気となりました。
【代表する画家】
代表する画家として江戸初期に活躍した菱川師宣や岩佐又兵衛、江戸中期に活躍した東洲斎写楽や鈴木春信、江戸後期に活躍した歌川広重や葛飾北斎などが挙げられます。この他に鳥居清長や喜多川歌麿、歌川国芳なども有名です。
浮世絵を商用利用するためには、権利や手続きについていくつか理解する必要があります。
【著作権について】
浮世絵を商用利用する上で理解すべき権利の1つが著作権です。著作権とは小説や絵画、音楽や彫刻などの著作物を保護するために著作者に与えられる権利のことをいいます。著作権は、著作物が創作された瞬間に発生し、登録などの特別な手続きは不要です。そして著作権者の許可を得ずに、著作物を利用することは基本的にできません。ただし著作権には保護期間があり、保護期間が過ぎると著作権が消滅し、パブリックドメインとなります。日本では原則として著作者の死後70年間が保護期間となります。2018年の著作権法改正前は保護期間は50年でしたが、法改正により70年に伸びました。つまり江戸時代(1603年-1868年)に制作された浮世絵の著作権は消滅している訳です。
著作権で注意したいのは、写真の著作権です。写真もまた、撮影者を著作者とする著作物なので、アングルや構図などに創造性が認められれば、撮影者に著作権が発生します。逆に写真に創造性が認められなければ、撮影者に著作権は発生しません。例えば、平面的な絵画を忠実に再現するために撮影された写真には、創造性が認められないため、著作権は発生しません。
有償無償問わず、写真素材であっても著作権者の許可を得ずに使用することはできません。imagenaviで販売中の作品は著作権者またはその代理人との契約のもとで販売されており、使用許諾の範囲内で作品の購入者が使用することができます。ただし、次項にある肖像権やそれに類する許諾については別途取得しなければならないケースがあります。
【著作者人格権と著作財産権】
著作権には狭義の著作権と広義の著作権があります。広義の著作権は財産的性質を有する著作財産権と人格的性質を有する著作者人格権に大別され、狭義の著作権は著作財産権のみを指します。一般用語として著作権といった場合には、著作財産権を意味している場合が多いです。そして著作財産権とは、著作権者の財産的利益の保護を目的とする権利の総称をいいます。著作財産権で保護される権利は著作権法で規定されており、複製権や上演権・演奏権など11種類存在します。ただし、著作財産権の保護期間(権利を行使できる期間)は著作者の死後70年間です。そのため多くの浮世絵では著作財産権は消滅しています。
一方で著作者人格権は、財産的利益ではなく、著作者の人格的な利益(名誉や感情等)を保護するための権利です。著作者人格権には公表権(未発表の著作物を公表するか否か決定できる権利)、氏名表示権(著作物を公表する際、どのように著作者名を表記するか決定できる権利)などがあります。著作者人格権はあくまでも著作者本人の名誉や感情を保護するための権利なので、権利を他人に譲渡することはできず、著作者が死亡しても相続されません。ただし、著作者の死後も著作者人格権は一定の保護を受けます。例えば著作者の遺族は、著作者の死後に行われた著作者人格権の侵害に対し、侵害の差止め・予防や、名誉回復などの措置を請求可能です。また、遺族だけでなく、著作者本人や遺族、遺言で指定された第三者にも行使権限があります。
【商用利用するための手続き】
上記で説明したように狭義の著作権(著作財産権)は、著作者が死亡してから70年経過すると消滅するため、大半の浮世絵は基本的に商用利用できます。ただし、作品の保有者・団体への許諾が必要な場合もあります。特に浮世絵をベースに改変して新たな作品を作る場合は注意しましょう。浮世絵の作者本人や遺族、作品の保有者・団体の名誉を傷つけるような改変は著作者人格権の侵害に該当する恐れがあるからです。このような著作者人格権のトラブルが発生する恐れもあるので、商用利用する際は所有者に許諾申請を取るのが安全です。
実際に浮世絵を商用利用する際は、著作権の消滅したパブリックドメインの浮世絵を公開している美術館サイトや、浮世絵の画像素材を提供しているサービスを利用する場合が多いです。パブリックドメインとなった浮世絵でも所有権自体は美術館側にあります。商用利用を禁止しているものや、使う場合は引用先を明記するものもあるので、美術館サイトを利用する場合は利用規定を確認してから使いましょう。画像素材サービスの場合も利用規約や制限事項の確認が必要です。画像素材サービスにも色々ありますが、例えばイメージナビでは、取扱中の画像素材を安心して使ってもらうための各種許諾・権利確認を行っています。不安な場合の相談も受け付けているので、初めて浮世絵を商用利用する方でも使いやすいのではないでしょうか。
ここでは代表的な浮世絵師と浮世絵を紹介していきます。
葛飾北斎(1760-1849)
富嶽三十六景・神奈川沖浪裏|葛飾北斎
葛飾北斎(1760〜1849)は江戸時代後期に活躍した浮世絵師です。葛飾北斎は1778年に人気浮世絵師・勝川春章に弟子入りし、翌年に勝川春朗の画号で浮世絵師デビューを果たします。北斎は約16年間、勝川派に属していましたが、破門されてしまいます。葛飾北斎という画号を名乗り始めたのは1805年頃からと言われています。1814年に北斎漫画の初版を刊行、1823年頃から代表作「富嶽三十六景」の制作を始めました。そんな葛飾北斎の作品保有団体としては東京国立博物館、島根県立美術館、日本浮世絵博物館などが挙げられます。
葛飾北斎の作品では富嶽三十六景・神奈川沖浪裏、富嶽三十六景・甲州犬目峠、富嶽三十六景・上総ノ海路などが有名です。神奈川沖浪裏は現在の横浜本牧沖から富士を眺めた景色を描いた絵です。世界的に有名でGREAT WAVE(グレートウェーブ)という名で親しまれています。甲州犬目峠は犬目峠(現在の山梨県上野原市)から見る富士の景色を描いた作品です。上総ノ海路は現在の東京湾浦賀水道から描かれたとされる作品で、同型の2隻の船が緻密な描写で描かれています。
喜多川歌麿(1753-1806)
風俗三段娘・中品之図|喜多川歌麿
喜多川歌麿(1753〜1806)は江戸時代中期から後期に活躍した浮世絵師です。喜多川歌麿は狩野派の絵師鳥山石燕に学び、北川豊章と名乗り、絵師として活動を始めます。20代は版本挿絵の仕事が中心で、28歳の時に刊行された「画本虫撰」が出世作となります。その後、「婦女人相十品」など多くの美人画を発表、人気を得ました。そんな喜多川歌麿の作品保有団体としては東京国立博物館、大英博物館、栃木市などが挙げられます。
喜多川歌麿の作品では娘日時計・申ノ刻、合わせ鏡のおひさ、風俗三段娘・中品之図などが有名です。娘日時計・申ノ刻では、揚帽子姿の大店の若い女性が、年配の女中を連れて歩く姿を描いています。合わせ鏡のおひさは寛政の三美人のひとり高島屋おひさを描いた浮世絵です。風俗三段娘は上品之図、中品之図、下品之図とそれぞれの品位で娘を分けて描いたシリーズものです。中品之図は中流の部に当たる作品で、構図のバランスが見事な作品となっています。
歌川国貞(1786-1864)
大芝居繁栄之図|歌川国貞
歌川国貞(1786〜1864)は江戸時代後期に活躍した浮世絵師です。歌川国貞は幼少期から絵の才能に恵まれ、10代半ばで初代歌川豊国の門下に入ります。22歳頃から美人画・役者絵を描き始め、一雄斎や五渡亭など様々な画号を使用しました。師豊国が亡くなった後、三代目豊国を襲名し、役者絵の豊国(三代)との評価を確立しました。そんな歌川国貞の作品保有団体としては浮世絵太田記念美術館、江戸東京博物館、東京国立博物館などが挙げられます。
歌川国貞の作品では菅原伝授手習鑑・車引の段、江戸名所百人美女・十軒店、大芝居繁栄之図などが有名です。菅原伝授手習鑑・車引の段は歌舞伎の演目「菅原伝授手習鑑」の一幕、「車引」を描いた1枚です。江戸名所百人美女・十軒店では、内裏雛前で雛人形の冠を手に持つ女性と、十軒店の風景が描かれています。大芝居繁栄之図は幕末期の劇場内を描いた作品で、芝居を楽しむ人々の活気に満ちた表情や、熱気のある劇場の雰囲気が感じられる作品です。
歌川広重(1797-1858)
東海道五十三次・川崎|歌川広重
歌川広重(1797〜1858)は、江戸時代後期に活躍した浮世絵師です。歌川広重は15歳で歌川豊広の門に入り、広重と名乗り始めます。師豊広が亡くなった後、1831年に「東都名所」、翌年に代表作ともなる「東海道五十三次」を発表し、風景画家として不動の地位を築きました。そんな歌川広重の作品保有団体としては中山道広重美術館、東海道広重美術館、東京国立博物館などが挙げられます。
歌川広重の作品では、東海道五十三次・川崎、浪花名所図会・堂島米あきない、名所江戸百景・玉川堤の花などが有名です。東海道五十三次・川崎は東海道五十三次の最初の大きな川である多摩川と、川崎宿が描かれた作品です。画面奥の西日で赤く染まった空と雪化粧した富士の姿のコントラストが美しい作品となっています。浪花名所図会・堂島米あきないは、江戸幕府公認のお米の取引所である堂島米会所での熱い取引の様子を描いた作品です。名所江戸百景・玉川堤の花は、江戸市中へ飲料水を供給していた玉川上水付近に植えられた桜を描いた作品です。
歌川国芳(1797-1861)
大江山酒呑童子|歌川国芳
歌川国芳(1797〜1861)は江戸時代後期に活躍した浮世絵師です。歌川国芳は12歳の頃に描いた作品が初代歌川豊国の目に止まり、それがきっかけで豊国門下に入ります。20代ではあまり人気が出ませんでした。しかし、30代になり発表した「通俗水滸伝豪傑百八人之一個」が人気となり、「武者絵の国芳」と称され、人気絵師の仲間入りを果たしました。そんな歌川国芳の作品保有団体としては山口県立萩美術館・浦上紀念館、東京国立博物館、熊本県立美術館などが挙げられます。
歌川国芳の作品では大物浦平家亡霊図、大江山酒呑童子、牛若鞍馬修行図などが有名です。大物浦平家亡霊図は能の演目「船弁慶」がモチーフで、西国へ向かう源義経一行に、壇ノ浦で沈んだ平家の亡霊たちが襲いかかる場面を描いています。大江山酒呑童子は酒呑童子物語のクライマックスの場面を描いた作品です。酔って童子から鬼面に変身しつつある酒呑童子に、源頼光とその四天王が斬りかかる姿を描いています。牛若鞍馬修行図は、能「鞍馬天狗」で描写されている、源義経が鞍馬山で修行する姿を描いた作品です。
浮世絵の著作財産権は消滅しているため、基本的には商用利用も可能です。ただし、作品の保有者・団体への許諾が必要な場合もあるので注意しましょう。また、浮世絵を改変して利用する場合は著作者人格権への配慮も必要です。このように浮世絵は著作権が消滅しているからと言って、自由に商用利用できる訳ではありません。ご不安な場合は、著作権や許諾に関する疑問・不安にお応えするイメージナビのライツクリアランスサービスをぜひご利用ください。
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